医学の歴史~中世【近代病理学の父モルガーニ】
今回は、NPO法人トータルヘルスサポーターズのブログリレー担当として、医学の歴史について特に近代病理学の誕生について書かせていただきます。
以前のブログ『医学の歴史~古代ギリシャ【ヒポクラテス】』の箇所で、古代ギリシャのヒポクラテスが属したコス学派の「病気を見ずに病人を見よ」という概念を紹介させて頂きました。
また、現代人も「病気を見ずに病人を見よ」とよく口にします。
しかし、本来この言葉は、「病気を見る能力」があるからこそ、意味がある言葉になるんだと思います。
今回は、いつの時代から人間が「病気を見る」ことが出来たのか?「病気を診る学問=病理学」の誕生について書いていきます。
病理学は「病理解剖学の父」と称される解剖学者、ジョヴァンニ・モルガーニによって確立されました。
ジョヴァンニ・モルガーニは、1682年、北イタリアのフォルリに生まれ、16歳のときからボローニャで医学と哲学を学び、その後、ボローニャで医学と哲学を学び、その後、ボローニャ大学解剖学教授アントニオ・ヴァルサルヴァの助手となりました。
1709年にはフォルリに戻り結婚し、12人の娘と3人の息子にめぐまれました。
彼はここで開業医となり成功しましたが、その後まもなく1711年に名門パドヴァ大学の理論医学の第2教授として招かれ、1715年、解剖学教授に任命されました。
もちろん、彼以前にも大解剖学者ヴェザリウスなど、病死体の重要性を説いて、何例もの病理解剖を行い、その記録を残していたと伝えられていますが、これが出版されることはありませんでした。
そんな時代にあって実直な性格のモルガーニは自分の主張を完璧にまとめあげるまで忍耐強く研究を続け、そして1761年、79歳になってようやく自分と恩師ヴァルサルヴァが行った膨大な剖検の記録を一冊の医学書として出版しました。
これが人類史上初の本格的な病理解剖学書『解剖により明らかにされた病気の座と原因』です。
この『解剖により明らかにされた病気の座と原因』の症例を紹介します。
症例1
74歳男性、1か月前より右脚を引きずるような歩き方をはじめ、腹痛を訴えていた。
やがて右下腹部に「犬にかまれたような」激痛が出現。
診察した医師は、右下腹部にしこりを触知、老人は脈が速く、目は落ちくぼみ、舌が渇いていた。
やがて痛みとしこりは腹部全体に広がり、老人は臭い嘔吐をして悶絶して死亡。
解剖所見では、盲腸の基部に広範な壊疸がみられ、足に通じる筋肉に接して大きな腫瘍が形成されていた。
症例2
酒飲みの乞食、酔っ払って仲間と喧嘩し左こめかみを棒で殴られる。受傷直後は左耳から出血がみられた。
その後ケンカはおさまり仲間と仲直りのワインを飲んでいたが、その後しばらくしてから乞食は急死。
解剖所見では、頭蓋と農を包む膜の間に血塊が生じ、大脳皮質が圧迫されていた。
現代の医学知識と照らし合わせると、前者は「虫垂炎」後者は「急性硬膜外血種」であることがわかります。
モルガーニは、このような症例を積み重ねることによって「病気の症状は、特定の臓器の障害によっておこる」という事実を明らかにしました。
彼はこのような研究によって「症状とはやんだ器官の悲鳴である。」と有名な言葉を残しました。
彼の登場によって、1500年にわたって医学を支配し続けていた仮説推論でなりたった古代ギリシャから四体液説などの「体液病理学説」は崩壊し、観察と検証を繰り返していく科学的アプローチによって、医学は更に発展していくことになります。
今回は、「病人を見ずに病気を見る」という視点から、近代病理学の歴史について書きました。
「病気を見ずに病人を見る」
「病人を見ずに病気を見る」
このふたつは議論になることもありますが、どちらが正しいというのではなく、常に両方の視点からバランス良く症状に対してのアプローチが大切なのだと改めて考えさせられます。
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